澤風、汐風の設置工事詳細

澤風、汐風の設置工事詳細

 峯風型駆逐艦澤風汐風を小名浜港の防波堤として活用する際の設置工事について、いわき市内の図書館に関連文献が3冊ありましたので紹介します。

小名浜港ケーソンヤード史<半世紀の道程> 

小名浜港ケーソンヤード史<半世紀の道程
本の表紙

運輸省第二港湾建設局小名浜工事事務所(昭和58(1983)年3月)
小名浜図書館 513オ B4サイズ

図書館入口すぐ右の郷土史の棚の上から2段目、左から4番目の棚にありました。

 郷土史資料なので禁貸出しですが、申請の上P112-127のコピーをとることができました。私はいわき市在勤者なので図書カード持っていますが、資料のコピーには図書カードもいらないようです。

 ケーソンヤード とは聞きなれない言葉ですが、ケーソンは(caisson)防波堤等の水中構造物に使われる、コンクリートや鋼製の箱状物のこと、ヤード(yard)はこれに関わる作業基地の事だそうです。 

 つまり港の整備に関わる歴史を記した本で、この中に澤風、汐風の沈船防波堤の設置詳細について書かれた章がありました。

第4章 敗戦からの復興 4-1 沈船防波堤の項です。P112-127 

 資材不足の中、食糧増産のための漁港の整備と、石炭積み出しの促進のため工業港を整備するため(いわきは石炭の産地でした)に昭和23(1948)年4月に澤風(本書では新字体の“沢風”表記)、同年8月に汐風が沈設据付された際の詳細な記録でした。

 内防波堤工事が澤風、中防波堤工事が汐風の沈設据付をさしています。内容は澤風、汐風それぞれの据付作業記録、作業分担表(組織図)の他、この作業に関わった佐藤昭雄技官による報告資料が掲載されています。

 据付作業記録には当日の天候や潮位の他、澤風の工事の際には東映映画班が撮影に来たことなども書かれており時系列の動きが良く判りました。

 東映の関係者の方が本HPをご覧になっていれば、社内データを探してくださると良いのですが。日本初の沈船防波堤の据付作業記録なので貴重だと思います。

 最も興味深かったのが佐藤技官の報告です。当時の背景、費用の他、船を固定するための方法が3種類の中から選定された過程や、固定のための図面が書かれていました。一部図面は汐風が埋められている現場案内版にある図面の原本であることが解りました。

駆逐艦汐風の案内図面
いわき市小名浜港
小名浜港にある案内版図面。黄色の囲い部分にご注目。
駆逐艦汐風の沈船防波堤図面
中防波堤竣工図
汐風図面(中防波堤竣工図)

 この本で改めて気づいたのが汐風の艦尾形状です。図面(中防波堤竣工図)によると、艦尾スロープが一等輸送艦のような艦側面が平面ではなく、艦尾付近の左右にイカの耳のような張り出しがある形状(爆雷投下軌条?)で描かれていました。作図された方の職業柄より、この図面の正確性は高いと思います。

 一方、船体形状に手をいれていない澤風の図面(内防波堤竣工図)では見慣れた半円弧状の艦尾になっています。当サイトでは汐風は一等輸送艦の艦尾を流用して艦側面を張り出しが無い状態で作製しています。これは誤りである可能性が高いですが半年以上前に作製済みで後の祭りでした。(気力がでれば作りなおします)

駆逐艦澤風の沈船防波堤図面
内防波堤竣工図
澤風図面(内防波堤竣工図)

 この作業記録の報告書ですが図面、文章、グラフ含めて全て手書きで印刷の問題もありかすれ、つぶれがあり、読みにくいのが難点です。しかし佐藤氏の報告は内容、図面共レベルが高いので、興味ある方は読んでみることお勧めします。
 とはいえ、いわき市の図書館に来られる方限定ですが。

小名浜港ケーソンヤード史<半世紀の道程>
佐藤技官報告書

 この報告では澤風(内防波堤)の工事記録の最後に、“沈船内防波堤は日本に於ける最初の試みであり、以上の如く工事を完了できた事は大成功というのが妥当である”(P121末尾)と書かれていました。
 戦後復興に貢献している感じがいいですね。

小名浜港工事事務所、50年の歩み

運輸省第二港湾建設局小名浜工事事務所(昭和54(1979)年5月)
いわき総合図書館 683ウ B4サイズ、

 5Fの郷土図書のコーナーの一番奥(窓側)の書棚にありました。同一本が2冊あり、1冊は貸出可のため借りてきました。

 1とは違い、薄手の学会要旨集のような水色の外観の本です。沈船防波堤関連の充実した文章はないですが6枚の写真が載っている点がポイントです。澤風が沈船防波堤として設置された後の写真4枚(P106,107)、汐風を防波堤にする作業中の写真2枚(P109)です。

 澤風の沈船防波堤時代は、船体が水面上に露出しており、駆逐艦的な外観を残した防波堤だったことが解ります。艦首側から見るとまさに進水直後の駆逐艦です。汐風の方は残念ながら、上で議論の艦尾の形状が明瞭に分かる写真ではありませんでした。ただ、複数の写真が撮られている筈なので今後発掘される可能性もあると思います。



 1で紹介の本のP112にも3枚の写真がありましたが、内2枚はこの本と重複していました。写真部分はコピーさせてもらいました。

駆逐艦汐風の沈船防波堤工事写真
汐風の設置工事写真
駆逐艦澤風の沈船防波堤写真
澤風の設置後の写真

 この本の隣には1と似た<ケーソン>との題字があるぶ厚い本もありましたが、ざっと見たところ年表に澤風、汐風の沈船工事の事が書かれているくらいで特筆すべき内容は無かったです。

開港までの礎

小名浜港 開港までの礎
本の表紙

1996年、運輸省第二港湾建設局小名浜港工事事務所 非売品
いわき総合図書館

 これもいわき市総合図書館内の2で紹介の本の並びにあった本です。A4サイズより一回り大きく、紫色の表紙の中央に<礎>と大きな字が書かれた重厚な本です。

 本書の<はじめに>には、“小名浜港の開港40周年を記念して、開港にいたるまでの写真を収録した記念誌として発刊した”とあります。編集発行元は、1で紹介した資料と同じく 運輸省第二港湾建設局小名浜港工事事務所 です。

 写真集で、基本的に位置ページに1枚の大判の写真がタイトル、簡単な解説とともに掲載されています。澤風、汐風に関する写真はP79~P83に載っていました。これらの資料は上で紹介の1,2と重複しているのですが本が写真集だけに画像が大きく、画質も良い感じがします。

 P79の解説には、<澤風は現在の魚市場の前に沈められ、漁船の港利用におおいに役立ち、汐風も、ようやく、戦後の経済の動きが激しくなった中で、小名浜港に寄港する貨物船のために役立った。しかし澤風は、漁港区の大幅改良のため、昭和49年、撤去された> とありました。P77の小名浜港平面図も1で紹介の工事報告書と同一でした。しっかりした報告書は後世の役にたつのが良くわかります。

 これだけだと、いままで紹介した資料と重複内容であまり面白くないのですが、沈船防波堤コーナーとは別のP87の<終戦直後の漁船団>というタイトルの写真が目をひきました。

駆逐艦澤風の沈船防波堤写真

 写真の主役は近景の漁船団ですが、写真左遠景に防波堤となった澤風が写っています。また遠景にも写真を横断するように沢山の船が写っていますが、位置関係から防波堤になった汐風に接岸していると思われます。沈船防波堤が港の一部として役に立っているのが良くわかる、いい写真だったので紹介しました。

 以上澤風、汐風の工事関連の文献でした。尚、ネット上では橘型駆逐艦の未成艦”桂”も小名浜港に防波堤として沈降させたとのウワサがありますが、今回見た本の中にはそのような記述は無かったです。
 
 図書館は良く行くのですが、特定テーマの調査的な目的で郷土コーナーを廻り、複写依頼をするのは初めての経験でした。なかなか面白かったです。

 最後になりますが、この本の情報は  “いわきの艦船ちゃん” 様より頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。



 

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